コロナ襲撃によって今もなお大打撃を受け続けている日本の飲食業界。その逆風吹き荒れる中で他の追随を許さない快走を続けているのが日本マクドナルドホールディングである。
2020年12月期には過去最高の営業利益を叩き出し、前年比11%増という躍進を見せた。
コロナ禍での成功の背景には、元より店舗での飲食に限定されずにテイクアウトやデリバリーといった業態を持ち合わせていたことも一因として挙げられるが、それ以外にもコロナ禍の時代に則した広告戦略を打ち出したことが大きな要因としてありそうだ。
そしてその広告戦略の大きな鍵を握るテレビCMを仕掛けたのが、日本マクドナルドCMO(最高マーケティング責任者)であるズナイデン房子、その人である。
彼女が目指したブランディングとは何なのか?
これまでの華々しい経歴や実績と共に確認してきたい。
ズナイデン房子の経歴
大学卒業後、資生堂に入社。
マーケティングの部署に配属され、以後マーケティングを極める道を進む。
資生堂では国内市場のブランディングを担当し、「TSUBAKI」を世に送り出した。
その後約30年務めた資生堂から日清食品へ。カップヌードルのグローバルブランディングに携わる。
そして現在、日本マクドナルド株式会社において上席執行役員兼CMO(最高マーケティング責任者)を務め、コロナ禍においても好業績を叩き出した立役者となる。
マクドナルドにおけるマーケティング戦略
冒頭でも記したとおり、日本マクドナルドの業績はこのコロナ禍においても好調である。
その成果を支えるマーケティング戦略・ブランディングの鍵は何処にあるのだろうか?
3つのインサイト
ズナイデン房子CMOがコロナ禍だからこそ意識したという3つのインサイト(顧客の潜在意識)を簡単にまとめる。
- セーフティ:対面接触回数の少ないサービス、安全衛生の取組み
- コンビニエンス:ドライブスルー・モバイルオーダーといった利便性
- バリュー:価格以外の付加価値
上記の中で一番重要なのが1のセーフティだという。
コロナ禍で急激に訴求力のあるワードとして急成長した要素である。今やこれ無くして飲食および食品業界は何も売り出せないだろう。
そしてこの3つを直接的ではなく、さりげなくCMに盛り込んだ事が成功の秘訣なのかもしれない。
まず第一のセーフティだが、大半の人がマクドナルドではテイクアウトやドライブスルーが出来ることを知っているだろう。CMでそうした利用シーンを放送する事で、それを改めて認識し日常の中で思い出して貰うきっかけを作る事に成功したのだ。
そして次にコンビニエンス。木村拓也さんを採用したCMの一つで「ドライブスルーでちょいマック♪」と口ずさむ場面が出てくる。大々的にドライブスルーやモバイルオーダーの利便性を明言するのではなく、こうしたシンプルなフレーズで印象付けることで、普段利用しない客層への利用を促すことに成功したのだという。
そして最後のバリュー。これは単に価格としての価値ではなく、それ以外の価値(=付加価値)を伝えることだ。この付加価値とは、マクドナルドが提供する食事そのものだけではなく、食事の時間や場所を通しての体験を提供しているという事だ。
最近のいくつかのCMでは家族間での会話に焦点を当てたものが見られる。つまり食を通して人とのつながりやその大切さを想起させているのだ。
こういったマーケティング戦略が功を奏し、企業別CM好感度ランキングにおいて2020年の第一位を獲得した。これは前年の8位からの大きな躍進である。
テレビ離れと言われる現代においてもCMの影響はまだまだかなり大きいもので、こうした好感度が売上増大に寄与した事は言うまでもないだろう。
マクドナルドにおけるブランディング
近年マーケティングと併せてよく用いられる言葉にブランディングというものがある
その名の通り、ブランドを作り上げることを意味する。つまりブランドのテーマや客層、そしてイメージを確立させる事だ。企業におけるマーケティングの鍵はブランディングにあるのかもしれない。
このブランディングにおいて、ズナイデン房子氏は「これは代えの利かないブランドであると思わせる」ことが重要だという。同じ業界に競合他社が全くいない場合は皆無である。その時に「このブランドだから買おう」という意識が、購入する側の頭の中にあればそれは成功なのである。言葉にするのは簡単だが、これを達成できたブランドこそが大成功を続けていくのだろう。